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【レビュー】私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む/ポール・タフ ◎子どもを理解し、どう接すればよいのかが学べる

こちらは、『ハーパーズ・マガジン』『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』編集者・記者を経て、フリーのジャーナリストになり、子供の貧困と教育政策を専門に多数の執筆・講演活動を行うポール・タフ氏が、学術的な見地から子どもの未来のために何ができるのかを指南する一冊です。

本書の目的として、次の2点をあげられています。

・現場と政策立案者の双方に実践的なガイドを提供すること

・成功例それぞれの核となる原理を抽出して解説し、共通点を見つけること

■ 本から得られること

かなり多くの事例とエビデンスをもとにした結論から、

「じゃあ、どうすればよいのか」という問題について明確な答えが得られました。

ストレスが脳に与える影響を理解し、関わり方を学び、何ができるのかを心の底から考えさせられたような気がします。

子育てにもコーチングが有効だと言われる理由が腹落ちしました。

子育ては環境によっていかようにもなるのだということがわかり、関わり方を考えさせられます。

なによりも、これからの日本の社会問題として、教育が変われば未来が変わりそうな可能性を感じました。

・子育てに悩んでいる方

・非認知能力に興味がある方

・非認知能力を身に着けてもらうために悩んでいる方

・問題児がいると思っている教育者の方

・日本、世界の未来をよくしたい方

・子どもが大好きな方

教育者の方だけではなく、子育て中の方だけでなく、日本の未来をよくしたい方は、これからどんな行動をしていけば良いのか、を考えさせられる一冊だと思います。

■ 要約

1.ポイント1:問題児に起こっていることを理解する。

❝「学習のための積み木」について書いたレポートのなかで、スタフォード ブリザールは こう述べている。 深刻な逆境にさらされてきた子供たちが学校でいちばん必要としている のは「ストレス反応から影響を受けているはずの能力を、改めて発達させるチャンスであ る。それは、絆をつくる能力、ストレスを調整する能力、何より自制する能力だ」。 しかし 現実には、こうした能力に欠けるために苦労している生徒たちは、学校システムのなかではこう見なされている。 「どうしたら規律を守らせることができるのか?」 学校側に は、子供が健全な自制のメカニズムを発達させられずにいることがわかっていない。彼らの目には、単に問題行動をくり返す子供としか映らないのだ。

私たち大人は子供が何か悪いことをしたときに、直感的にこう決めてかかる。 「子供がこんなことをしたのは、自分の行動の結果を理性的に考えて、代償よりもその行動により利益のほうが大きいという計算が働いたからだ」 そこでふつうは子供たちが受ける罰を重くして、悪いおこないの代償を大きくしようとする。しかしこの方法に効果があるのは、悪いおこないがほんとうに理性的な打算の産物だった場合だけである。 ところが実際にはこれは神経生物学の研究によって判明した重要な点の一つでもあるのだが―若者の行動、とくに深刻な逆境を経験してきた若者の行動は、多くの場合、理性とはかけ離れた感情や精神やホルモンの影響を受けている。

もちろん、だからといって、教室での悪いおこないを教師が許したり無視したりすればいいわけではない。だが長い目で見たとき、問題を抱えた若者の動機付けとして、なぜ厳しい罰則では効果がないのかはこれでわかる。

生徒が自ら自制能力を発達させようとする状況や仕組みをつくりだすことに重点を置いた方が、もっと効果があがるはず。

・停学処分の多く出たところでは、停学になったことのない生徒の数学と読解の学期末試験の結果が落ちていた。厳しすぎる規律の方が、問題行動のあるクラスメートよりもストレスと不安の原因になったのかもしれない。❞

(一部抜粋)

自分の子どもの頃を思い出しました。

理解しようという気持ちが全くない残念な子どもだったな~と。

ただ、何が起こっているのか、どんな問題を抱えているのか、説明されたら何かが変わったのかな、とも思います。

やっぱり決めつけるのではなく、知ろうとする、理解しようとすることからですね。

安定したアタッチメントや、ストレスを管理する能力、自制心といった基幹の上に

自己認識能力や人間関係をつくる能力などが発達し、そこから

レジリエンス、好奇心、学業への粘りといった高次の非認知能力が身につくそうです。

2.ポイント2:内発的動機づけ「自律性」「有能感」「関係性」

❝デシとライアンは教育に関する著述を、人間は生まれながらの学習者で、子供たちは生まれつき創造力と好奇心を持っており、「学習と発達を促進する行動を取るよう、内発的動機づけがなされている」という前提から出発した。 しかしながら、このアイデアは「退屈さ」によって複雑になる。何かを学ぼうと思ったら、それが絵を描くことであれ、プログラミングであれ、八年生の代数であれ、たくさんの反復練習を要する。 反復練習はえてしてかなり退屈なものだ。デシとライアンは、教師が生徒に日々求めるタスクの大部分は、それ自体が楽しかったり満足できるものだったりするわけではない、と認めている。 掛け算の九九を暗記することに強い内発的動機を持っている子供は稀なのだ。

この瞬間、つまり内なる満足のためでなく、何かべつの結果のために行動しなければな くなった瞬間に、「外発的動機づけ」が重要になる。デシとライアンによれば、こうした外発的動機づけを自分のうちに取りこむようにうまく仕向けられた子供は、モチベーションを徐々に強化していけるという。ここで心理学者は、人が求める三つの項目に立ち戻る。「自律性」「有能感」「関係性」である。この三つを促進する環境を教師がつくりだせ れば、生徒のモチベーションはぐっと上がるというわけだ。

では、どうやったらそういう環境をつくりだせるのか? デシとライアンの説明によれば、生徒たちが教室で「自律性」を実感するのは、教師が「生徒に自分で選んで、自分の意志でやっているのだという実感を最大限に持たせ」、管理、強制されていると感じさせないときである。また、生徒が「有能感」を持つのは、やり遂げることはできるが簡単すぎるわけではない生徒たちの現在の能力をほんの少し超える課題を教師が与えるときである。さらに、生徒が「関係性」を感じるのは、教師に好感を持たれ、価値を認められ、尊重されていると感じるときである。 デシとライアンによれば、この三つの感覚には、机いっぱいの金の星や青いリボンよりも、はるかに動機づけの効果があるという。生徒のモチベーションを高めたいと思うなら、教室の環境や生徒との関係を調整し、この三つの感覚を強化する必要がある。 「生徒が自律性感性を実感できる環境は、内発的動機づけを育てるだけでなく、あまり面白くない学習も進んでやる気にさせるものだ」とライアンはそう結論づける。❞

(一部抜粋)

きました!内発的動機づけ。

どうしたら「学業のための行動」を生むのか。ということも記載されていました。

3.ポイント3:カギとなる4つの信念

❝もしあなたが教師だったら、生徒たちをグリットのある人間にすること――グリットと呼ばれるきわめて重要な資質を発達させることはできないかもしれないが、グリットがあるようなふるまいをさせる、グリットがあればこうするだろうという行動を取らせることならできる。ファリントンの主張によれば、まさにそれが大事なのだ。その粘り強い行動が、教師が望む(そして生徒と、社会一般が望む) 学業の成果を生む助けになるのである。

では、生徒に粘り強い行動をさせるにはどうしたらいいのか? ファリントンが調査から導きだした結論によれば、「学業のための粘り強さ」の背後にあるカギは、「学業のためのマインドセット (心のありよう)」、つまり子供たちそれぞれの姿勢や自己認識である。 ファリントンは生徒のマインドセットに関する大量の研究から、カギとなる四つの信念を抽出した。生徒たちの教室でのがんばりに最も大きく貢献する信念である。

・私はこの学校に所属している。

・私の能力は努力によって伸びる。

・私はこれを成功させることができる。

・この勉強は私にとって価値がある。

生徒たちが授業中にこの信念を持っていられれば、そこで出くわす課題や失敗を乗りこ えられる。この信念がなければ、最初の困難がちらりと見えたところであきらめてしまうかもしれない。❞

(一部抜粋)

上記4つの信念を持っていれば、「学業のための粘り強さ」ができ、「学業のための行動」をとるようになる、と記載されていました。

また、次のようなことも書かれていました。

❝ポジティブな心のありように貢献する環境をつくろうとするとき、教育者が頼れる道具箱はふたつある。一つめの道具箱は「人間関係」。生徒にどう接するか、どう話しかける か、褒美と規律をどうやって与えるか。二つめの箱は「学習指導」だ。何を教えるか、どう教えるか、生徒の習得度をいかに評価するか。この先の章では、学ぶ環境を強化するこ とによって低所得層の生徒たちの成果を改善してきた例をいくつか挙げる。人間関係をターゲットにしたものもある。 学習指導に焦点を合わせたものもある。 先に論じた幼少期の支援についてもそうだったように、どれも完璧ではない。しかしすべてを考えあわせることで、逆境にある生徒たちが学校で成功するためにはどう支援するのが最善か、おおまかなガイドラインのようなもの、基礎をなす原則のようなものが見えてくるのではないだろうか。

(一部抜粋)

読めば読むほど、いろんなものが繋がってくるような感覚になりました。

どうやったら自分事として捉え、どんな意味づけをしてもらえるのか、サポートすることはできるのかなと感じました。

■ 今後に活かせること

  1.  プラスに働く介入の機会を子ども時代のなかでできるだけ多く探す。
  2. 帰属意識、安全、安定、世界のなかでの自分の居場所のメッセージを送る。
  3. 失敗はチャンスだというメッセージを送る。

■ 感じたこと

非認知能力をどうすれば伸ばせるのか、こんな時はこう接しましょう、

という本はよくありますが、この著書は「子どもに何が起きているか」を理解したうえでの対策が書かれていました。

様々な環境の問題から起こることを抽象的に取り上げ、具体的に行動を考えていく。

本当に子どもに何ができるのか、子育ての本質が学べるような感覚です。

筆者の子どもに対する愛情も感じられて、頑張ろうと思えた一冊でした。

■ 著書について

・【書籍名】私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む

・【著者名】ポール・タフ 氏

・【出版社】 英治出版

・【出版日】2017年9月